東京高等裁判所 昭和39年(う)1755号 判決 1965年2月19日
主文
原判決中被告人両名に関する部分を破棄する。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意は、被告人両名の弁護人遠山丙市、被告人岡の弁護人元林義治、被告人益子の弁護人三文字一郎および被告人益子本人の提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用する。
各論旨に対する判断に先だち、まず、職権によつて調査すると、原審第一二回公判調書(記録九〇八丁以下)には、本件につき、昭和三九年七月二日東京地方裁判所で被告人らおよび弁護人出頭、検察官出席、裁判官および裁判所書記官列席のうえ第一二回の公判が開かれ、裁判官が前回終結した弁論を再開し被告人益子および原審相被告人河住洋についてそれぞれ指紋照会回答書の証拠調が行われ、検察官および出頭した各弁護人の意見が述べられ、被告人らの最終陳述があり、裁判官の判決宣告があつた旨起載されているが、肝心な列席した裁判官の氏名の記載がない。もつとも、同公判調書右肩上部の裁判官認印欄には神崎なる認印があり、これが前回までの各公判に列席した裁判官神崎敬直のものであることは窺われるけれども、これのみではいまだ右第一二回公判が右裁判官の列席のもとに開かれたものと断定することはできない。およそ列席裁判官がなに人であるかは公判調書中最も重要な必要的記載事項であり(刑事訴訟法第四八条第二項、刑事訴訟規則第四四条第一項第四号)その欠如は、公判調書を無効とするほどのものであつて、(最高裁判所昭和二三年(れ)第三三一号同年六月二六日第二小法廷判決、刑集二巻七号七四三頁以下参照。)公判調書以外の資料によつて補充することを許さないものと解すべきであるから、右公判調書に裁判官の氏名の記載がない以上、原審第一二回公判はいかなる裁判官が関与して開廷されたかを知るに由なく、結局、法律に従つて判決裁判所が構成されたか否かの証明がない場合に当るといわざるをえず、原判決中被告人両名に関する部分は、各論旨に対する判断を待つまでもなく、既にこの点で到底破棄を免れない。(東京高等裁判所昭和二六年(う)第三六三号同二七年二月一三日第五刑事部判決、特報二九号三九頁以下、同昭和二八年(う)第一一六八号、同二八年六月一六日第一一刑事部判決、特報三八号一二二頁以下および同昭和三八年(う)第二八八二号同三九年六月三〇日第八刑事部判決、時報一五巻六号刑一四二頁以下参照。)
そこで、各控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七七条第一号に則り、原判決中被告人両名に関する部分を破棄し、同法第四〇〇条本文により、本件を東京地方裁判所に差し戻すことにする。
以上の理由によつて、主文のとおり判決する。(松本勝夫 龍岡資久 横田安弘)